迷いの窓NO.66
ベルギーからのメール
2005.6.5
  読者にはコラムNO.50「聖夜2004」でご記憶かもしれないが、このコラムがご縁でベルギー在住の日本人女性からメールを頂戴するようになった。
「数珠」のことなどを検索されるうち、この『迷いの窓』に本当に迷い込んでしまわれたらしい。
これも数珠につながれる「ご仏縁」のように思い、感謝している。
最近のコラム「微妙の声」や「春告魚」をご覧になって貴重なお話を伺ったので、ここに一部をご紹介させていただきながら、知られざるベルギーを訪ねてみたい。

  皆さんはベルギーの国にどのようなイメージをお持ちだろうか?
女性の中にはベルギーワッフルや世界最高峰のチョコレートと称えられる“GODIVA”というブランド名を真っ先に思い浮かべる人もいるかもしれない。
しかしどちらかと言えば、日本人にとって何となく捉えどころのない、ぼやけた印象というのが本音ではないだろうか?
面積は四国の1.5倍、人口は1、026万人。
芸術の香り高い歴史のある土地でありながら、ベルギーとして独立建国したのが1831年というから、まだ新しい国である。
首都ブリュッセルはフランス語とオランダ語の二言語併用地域であり、公用語としては他にドイツ語がある。ブリュッセルにEUとNATOの本部を置き、3つの言語地域を包括するベルギーは、まさに「ヨーロッパの縮図と表現されている。

  一般的な解説はガイドブックに任せることにしよう。
私はベルギーというと『青い鳥』を書いた劇作家メーテルリンクのことが一番先に頭に浮かぶ。
日本人なら誰でもが知っているこの物語の作者の国と聞けば、俄かに親近感も涌いてこようというものだ。ここにも敬虔なカトリックのお国柄らしい、キリスト教の倫理思想の一端を見ることができる。

  メールに書かれていた中世の香り漂う石畳のグランプラスには今頃花市が立ち、Xmasに巨大なツリーが飾られた広場は表情を変えていることだろう。
グランプラスに程近いエチューブ通りに、これも日本人にはよくお馴染みの「小便小僧」の彫像を見ることができる。身長56cmの坊やの年齢は600歳。マヌカン・ピスまたはプチ・ジュリアンと呼ばれ、「ブリュッセルの最年長市民」として愛されている。
小便小僧の裏版としてジャヌケ(小さいジャンヌ)と呼ばれる女の子もいて、賑やかなレストラン通りの路地裏にひっそりと佇んでいるという。その像の前にはお金を放り込むところがあり、「エイズ基金」と記されているそうだ。
Xmasのワンシーンにも感じたことだが、社会貢献の精神をこんなにもさりげない形で感じさせる国民性には敬服の念を抱いてしまう。

  「微妙の声」に関連して・・・孔雀はフランス語圏では「レオーン」と鳴くそうである。
これはスイスのジュネイヴでのお話。
ある日大きな庭園のある職場に孔雀が飛来してきて(元は貴族の持ち物で現・国連支部と聞いて仰天した)、ここでは誰も放し飼いの動物に危害を与えることはないので、人なつっこくいつも「レオーン」「レオーン」と鳴いていた孔雀はいつしか“レオーンちゃん”という名前になってしまったという、微笑ましいお話も伺った。
公園でも白鳥や鵞鳥が平気で群れ遊ぶ光景が見られるという。
この国では公園の柵は中の動物が外へ出てこないようにするために作られているということだ。
公道にアヒルたちが集団で出てくることがあっても、車は黙って通り過ぎるまで待っている。
都会の喧騒の中で、そんな優しい人々の眼差しを行間から感じる取ることができ、何かほのぼのとした気持ちになった。

  北海道で春告魚の鰊はベルギーでも旬の魚で“初夏の風物詩”とあった。
新鮮なオランダルートのものを好んで食べられるそうだ。
鰊はオランダ語でHaring英語ではHerring。
日本では杉綾織という伝統柄が、鰊の骨に似ていることから「ヘリンボーン」という柄として一般化していると言えばピンとくるかもしれない。

  ベルギーやオランダでは数の子を食べる習慣はないが、生の鰊の切り身にオニオンスライスをのせてレモン汁をかけ、街角の屋台やスタンドで口を開けて滑らせる姿が見られるというお話に大変興味を引かれた。
海の恵み豊かなフィヨルドで冬を過し、ノルウェー北部、南西海岸北部で春に産卵するのが大西洋北欧鰊で、初漁の今頃から2ヶ月間水揚げされるこの時季の鰊には特に“乙女の鰊”という麗しい名称が与えられているそうである。
何と言ってもこの“乙女の鰊”の目利きはベルギー人とオランダ人に敵わないらしい。

  オランダでは6月のはじめに初物の鰊がオランダの女王様に捧げられ、一番樽がオークションにかけられて収益金が救済事業に寄付されるという素敵なお話もある。さながらボジョレーヌーボーが出荷される時のように一大イベントなのだという。
鰊は水揚げ直後の新鮮なうちに、船上で魚の内臓と膵臓だけを残して取り除き、血抜きをしたあと塩漬け液の入った50リットル入りの樽に仕込まれるという独特の加工方法には驚いた。
オランダ人に、刺身やお寿司好きの人が多いのもHaringを生で食す習慣があるために抵抗がないのだろうとメールにはしたためられていた。
和風にわさび醤油や生姜醤油というスタイルもあるが、一般的には玉葱のみじん切りやきゅうりのピクルスを添えて食べられるようだ。

  また、口を天に向けて、頭を切り落とした鰊の尻尾をつかみ丸ごと飲み込むように食べるのがオランダ人の流儀だそうで、写真の掲載されたHPのアドレスを表記下さっていた。
喉につまりやすいため、冷たいビールやジンで流し込むのがお勧めとのこと。
<鵜飼の鵜みたい?>と可笑しな想像をしながら、冷たいビールと聞いて<美味しそう!>と思わず喉が鳴った。NO.67へ続く

迷いの窓トップへ メールへ