![]() 友好同盟T 2005.9.21 |
誰にでも健康のバロメーターというものがある。 私の場合は「今日もお酒が美味しく飲めること!」が健康の証。 最近は「弓が引けること」が加わっているが・・・。 そう、弓を引けばその日の健康状態が分かるのだ。 アルコール依存症ではないので念のため。 お酒は食欲を増進させる。叔母も小さいお猪口で2杯ほど晩酌を嗜んでいる。 二人でゆっくりと時間をかけて食事を楽しむのである。それは至福の時でもある。 このコラムにも時折お酒のことを書いているが、私をよく知る友人には「お酒の話題になると何だか文字まで生き生きして踊っているみたいよ。」と言われ、「やっぱり?」なんて返している。 ところが、このところ<今日も絶好調の青信号が、黄色かな?まさか赤信号?>と思わせることが続いている。 これがウルトラマンなら胸の石がピコピコ音を立てているところだ。 ピコピコ信号が始まる前の話だ。 叔母が一日入院したその日に、「一人で食事をするのは寂しいでしょう・・・」と心優しき友が晩御飯に誘ってくれた。久々にイタリアンのお店でパスタに舌鼓を打ち、グラスワインを傾けた。 「グラス一杯じゃ寝た子を起こすようなもの?」と冗談を言いながら、2件目はショットバーへ。 朗読の先生のお気に入りのバーで、噂は聞いていたが初めてのお店だった。 外のドアを開けるとさらに円筒形のエントランスがある。さながら宇宙船から異次元の世界へワープするようにわくわくした。円筒形の中は赤一色でちょっと開けるのに勇気がいる扉だったが、思い切って真っ赤なドアを押し開けた。 客は一人しかいなかった。店内はゆったりとした造りで、カウンターは広いスペース、椅子も贅沢な設えで、聞き慣れたジャズナンバーが静かに流れている。 直感的にくつろげる空間であることを察知した。 大きく円を描いたライトが明暗をわけるようにテーブルの上に3つ、4つと注がれている。 一瞬、<弓の的より少し大きいか?>などと変なことを考えてしまった。 正面の棚に目をやると、そのお店の特徴は一目瞭然である。 所狭しとありとあらゆる種類のお酒が並べられ、プレミアボトルなどもちらほら見えるバーもあれば、やわらかいフォルムのコニャックの瓶がズラリという特徴のお店もある。 ここは見事にスコッチのボトルばかり。 <スコッチか〜?>実は私は洋酒ならバーボンが好きである。 バーボンというよりテネシーウイスキーと言った方が正確だ。とここまでくれば、<ああ、ジャックダニエルのことね>とクラシカルな黒ラベルを思い浮かべる人もおられるだろう。 ボトルが並んだ上の棚に目を移すと、中段には2〜3本のボトルの上に年代物のカメラが3台こちらを向いていた。 まるでファインダーの向こうからマスターに品定めされる被写体になった心持ちであった。 「ハイランドクイーンを」と思わず口を突いて出た。 「ブレンデットですね。うちはシングルモルトだけで・・・」 そう言えば函館の他のバーでもこんなやりとりが・・・この土地にはスコッチにうるさい客が多いのか、それとも揃いも揃ってシングルモルト一辺倒のマスターとでも言うのか? ウイスキーは原料と製法の違いで、麦芽(モルト)だけを原料とする「モルトウイスキー」とトウモロコシを主原料(他に小麦・ライ麦)とする「グレーンウイスキー」の二つに大きく分類される。この2種類の原種をブレンダーの感性でバランスよくブレンドされたものが「ブレンデットウイスキー」である。 日本では「バランタイン」や「ジョニウォーカー」「オールドパー」などがポピュラーだ。 注文した「ハイランドクイーン」とは16世紀スコットランドに実在した女王「メアリー・ステュアート」のこと。その激しい言動と新教徒を迫害したことから、またの名を“鮮血メアリー”と呼ばれた。 運命に翻弄されながらも自由奔放に生きた女王はイングランド女王エリザベス一世と対立し、最後には幽閉、処刑されて波乱万丈の生涯を閉じることになるが、スコットランドでは今でも愛されている女王と聞く。 トマトジュースをウォッカで割るカクテル「Bloody Mary(ブラッディー・マリー)」は彼女そのものであり、ハイランドクイーンも幽閉中の女王を慰めるために捧げられたスコッチである。 カクテルには歴史上の人物の他、ハリウッドの女優の名前がつけられたものも多くある。 また、映画や小説の中でも、重要なエッセンスの役割を担っていたりする。 映画『カサブランカ』でイングリット・バーグマンがハンフリー・ボガードに「君の瞳に乾杯」と囁かれるシーンはあまりにも有名だ。 私は時折、ハードボイルド小説で著名なレイモンド・チャンドラーが世に送り出した名探偵フィリップ・マーローの大好きな「ギムレット」や『プレイバック』の中の彼のように「ギブソン」をやったりする。 せめてこの一杯のカクテルが流し込まれる間、映画や物語の主人公になったり、実在した人物の人生を味わってみる。お酒にはこんな楽しみ方があってもいいのではないかと思う。(NO.80へ続く) |
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