NO.4
香の十徳

2003.9.9
現代は視聴覚からの情報があまりにも過剰なため、人間の感覚器官にゆがみが生じていると言われる。
虫の声や波の音でさえ、癒しの音楽と称してCDで聴く時代である。
ビジネスシーンにおいても若い世代のいわゆる「指示待ち族」が増えている。
コンビニ世代には、味覚音痴も多い。

これはやはり、本来の生命体としての感覚が退化している兆候ではないかと思う。
人は絶望の淵にある時、最も大切な人を失って形容しがたい悲しみと喪失感に襲われた時、心に何らかの障害を抱えた時、五感のバランスを失ってしまう。
何を食しても砂を噛んでいるようで、嗅覚も味覚も完全に失われてしまうのである。
この感覚は、経験の無い人には決して理解できるものではない。
隠れうつ病や、原因の分からないメンタルな症状に悩む人も驚くほど現代にはあふれている。

香老舗松栄堂の十二代目当主畑正高氏の提言のように、「人間の五感を再構築する手段の一つとして、普遍的な「香り」というものが評価される時代」の到来を痛感している。
香の十徳というものがあるのでご紹介したい。
香の効用によって、肉体と精神のバランスのとれた健康体を保ち、歳を重ねても頭脳明晰で有りたいものである。
香を聞くという行為は、静寂な心を養うばかりか、幽玄の精神世界に身を委ねることに他ならない。そこには限りない感性の泉がある。
幽玄な世界を通して、心に一円相を描くような境地に多少なりとも辿り着きたいと思うのだが、どの道も極めるには一にも二にもたゆまぬ精進が必要なようである。
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