NO.112 柿色の記憶(三幕) 2007.1.20 |
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私は歌舞伎の通人ではない。しかしながら歌舞伎から学ぶことは多く、知れば知るほど興味をそそられる。それは間違いなく想像力を養い、心を豊かにしてくれる日本の「玉手箱」という「おはこ」である。 表現の世界は観衆や聴衆があってこそ。伝統芸能は継承するものだけが芸を究めるのではなく、育てる社会に土壌がなくては文化の発展は望めない。 どんなことでも育てるためには長い年月と努力を必要とする。 日本の伝統色「柿色」とともに大切なことが忘れられないよう、私たちは今こそ日本の木守りの役目を果たさなければならないのではあるまいか? 歌舞伎の海外公演は決して珍しくないが、今年3月、ほとんどオペラとバレエしか演じられることのないパリのオペラ座で市川團十郎と海老蔵親子の歌舞伎が上演される。 世界の表舞台に日本の柿色が姿を現す。 演目は「勧進帳」と「紅葉狩」、口上もある。 柿は学名[Diospyros kaki ] Dios (神)+pyros(穀物)で神の食べるもの。美味しいものという意味だそう。フランスでもドイツでも[Kaki]で通じるという。 今や世界的に日本の果物として認知されている柿。日本では渋柿になり甘柿になり、時代と共に人々の思いを彩ってきた。これから何百年の時を経てもたわわな実をつける文化として守り育てる心を失いたくないものである。 美しい品格と味のある芸術、それが「日本の歌舞伎」“神の食する柿のようだ”と語り継がれるためにも・・・。 昨年は無謀にもサンサンてるよ師匠の創作落語『大川桜』を朗読の録音作品に選ばせていただいた。師匠自らが録音してして下さったカセットテープや初の高座を経験された貴重なDVDをお手本として、「落語」という語りの世界で新境地を開くことができたと感じている。 拙い口上を考えながら年頭にあたり目標を定めた。 今年は團十郎さんが昨年復帰公演の演目に選ばれた歌舞伎十八番の中の『 俳優・アナウンサー・日本語教師などの間では、滑舌の練習として有名なものである。 はてさて如何なりますことやら?結果は何れご報告申し上げることに致し候。 「・・・武具馬具武具馬具三武具馬具・・・」 最後までお付き合いいただき感謝申し上げます。 今日はこれにて幕切れにございまする。 「暫く、あいや暫く・・・」 「何事でござるか?」 「今日は鏡開きでござる」 「鏡開きとな?」 「いかにも」 「なるほど、武家では江戸時代初期まで具足(甲冑)や鏡台に供えた餅を 「鏡は鏡でも酒樽の蓋のことでござる。 ご訪問の皆々様に振舞い酒をせねばなりませぬぞ」 「薦(こも)かぶりでござるな、して、その銘柄は?」 「もちろん、京は伏見の名水で造られた“月桂冠”にござる。 これぞ、命の水の冠開き!」 「こいつあ〜春から縁起がいいわいな〜」 振舞い酒はございませぬが、新春一番の福をいただき、さらに福をかき集めて参りましたゆえ、皆々様には三升の如くますますご壮健であられ、柿のように実り多き年となりますことをお祈り申し上げまする。
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