法衣の色 黒橡
くろつるばみ
橡(つるばみ)は団栗の古名。どんぐりのかさを煎じて鉄焙煎で染めると黒橡という色になる。
一般に橡とはこの色のことであり、墨染めとも呼ばれていた。
黄橡(きつるばみ)
同じく橡染で衣服令以来知られるようになった色。
五位以上の尼僧に許された黄みを帯びた暗褐色。
橡染めでないのに橡の字が使われている特殊な色。
染色法も黄色の染料の刈草(かりやす)と紫染の紫草を混合して灰色にくすんだ黄緑色という非常に珍しいもの。
「延喜式」十四巻「縫殿寮」に法服の記述があり、読師と呼ばれた僧侶の袍の色がこの青白橡(あおしろつるばみ)の綾であった。

    
  古来より黒と言えばこの黒橡であった。どんぐり
冠位十二階の制度でも、養老の衣服令でも最下位の色であり、家人奴婢が着る色とされて高い身分の人が着る色ではなかった。
持統七年(693年)正月の詔では
天下(あめした)百姓(おほみたから)をして黄染めのきぬ)を服しむ。
(やっこ)はくろ衣をきしむ」とある。

  11世紀には一転して、四位以上の高官が召される朝服の袍の色となり、「橡の袍」と呼ばれるようになる。

  日本では白装束が喪服であり、凶色としては鈍色という色がある。
黒が喪服として葬儀に使われるのは、比較的新しい時代のことである。
江戸末期から明治にかけて男子の黒紋服と黒袴にならうように、女子も大正から昭和にかけて黒喪服になる。
勿論、変色しないことの合理性や外国からブラックフォーマルが入ってきたことも喪服の色を変更することになった重大な理由である。
染色法の発達に伴って、染め色の黒はだんだん高級になっていく。
近年になりマレーシア産のヤシ科の植物、檳榔子(びんろうじ)の実を用いこれに柘榴(ざくろ)の皮を混ぜて染めた墨染めが式服の黒紋付の最高級品とされるようになった。

  中国では東晋の後を受けた宋の文帝の時代に、僧慧林が国政に参画し、世人は「黒衣の宰相」と呼んだ。また梁の武帝は仏教信仰が厚く、「白衣(俗人)の僧正」として僧界に君臨した皇帝である。

やがて日本でも墨染めの衣と言えば僧侶の衣となり、厳しい身分制度の封建社会にあって、身分を越えられる特権を得ることになる。
また僧の衣から端を発した「十徳」なる衣を文化人や医者がまとうだけで、彼らも僧に准ずる者として身分を越えることができるようになるのである。
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